固定資産課税台帳の活用と問題

固定資産課税台帳の活用と問題

建物の建設時期や除却時期を正確に把握でき、かつ一般的に公開された統計調査は日本に存在しない現状を前回述べたが、一般に公開されていない統計資料であれば存在する。今回は固定資産課税台帳の活用方法と問題点について明らかにしたい。

固定資産課税台帳とは地方税法第380条第1項の規定により、市町村が固定資産の状況及び固定資産税の課税標準である固定資産の評価を行うために市町村が管理・保管している台帳であり、土地課税台帳・土地補充課税台帳・家屋課税台帳・家屋補充課税台帳・償却資産課税台帳の5つの台帳の総称である。このうち登記簿に登記されている家屋(建物)について登記事項※1が記載されている家屋課税台帳には、建物の寿命を算出するために不可欠な建設時期・除却時期が記載されている。

そこで固定資産課税台帳を用いた建物の平均寿命の算出には、建設時期を家屋課税台帳を取りまとめて公表されている「家屋建築年年次別棟数調」を、除却時期を家屋課税台帳のなかでも除却建物を対象とした「家屋除却台帳」から必要な箇所を抜き出す調査結果を用いる。これらのデータは建設時期及び除却時期を知る上で現在最も信頼性の高い資料だと考えられる。

では建築動態統計調査と固定資産課税台帳に関する調査の決定的な違いはどこにあるだろうか。建築動態統計調査は建設工事・除却工事を行う前に提出する届出調査であることは前回述べたが、固定資産課税台帳は固定資産税を算出する重要な資料であるため、役所の担当者が毎年現場で直接確認して記載するのが前提である。特に除却については建築動態統計調査では把握しきれていない可能性が高いが、固定資産台帳で把握していない場合建物が存在していないのに固定資産税が課税されることになるため大きな問題になる。つまり固定資産課税台帳は直接「お金」に結びつくため、課税者側の行政も非課税者側の所有者もデータの管理が不可欠であり、その結果信頼性の高いデータになる。

しかし固定資産課税台帳のデータにも問題はある。もちろん個人を特定できる可能性が高いデータなので一般的には公開されない※2ことも問題であるが、一番の問題は固定資産課税台帳のデータ自体ではなく、その保管体制にある。固定資産課税台帳などの資料は5年間の保管義務があるため過去5年間のデータについては調査が可能であるが、それ以前の資料はほぼ全ての市町村で廃棄されているため手に入らない。現状を把握することはできても、これまでの経緯を把握することはできない状況である。幸い大阪では家屋除却台帳が保管されていた※3ため、経年変化についても分析を行うことが可能であった(文献1)。

なお2000年以降固定資産課税台帳のデジタル化が進み、これまでのように役所は紙の台帳にして保管する必要はなくなったため、保管場所などの問題はほとんど無くなっている。しかしデータの保管期間は従来通り5年間であり、5年経過するとデータを破棄する方向は変わっていない。ちなみに大阪では紙の台帳はそのまま保存されるがデジタルデータは5年で破棄される可能性が高く、行政の資料に対する保存体制には違和感を覚える。

建物の寿命を算出する資料は恐らく固定資産課税台帳しかない状況なのに、そのデータは今後も次々と失われていく可能性が高い。しかも固定資産課税台帳は固定資産税の算出以外にも日本の社会資産である建物の実態を把握できる貴重な資料である。これらの資料が5年で破棄される理由は保管スペースの問題だけではなく、これまで分析などに活用されていないからであろう。しかし建物の平均寿命の推移を把握するには各年の積み重ねが不可欠であり、少なくともデジタルデータは全て保管する体制が必要である。そして既に提案したように例えば建築動態統計調査と統合できれば、データの有効活用だけでなく費用や保存スペースなどの問題も削減できるだろう。

※1 所有権の登記名義人の住所・氏名・名称、家屋の基準年度の価格、比準価格など
※2 データの一部は家屋建築年年次別棟数調や市政概要などで公開されている。また固定資産課税台帳の縦覧制度もあるが、全家屋を閲覧できるわけではない。
※3 関西地方には諸事情により、固定資産課税台帳が現在の形で整備された1951年以降の各種台帳が保管されている地域がある。

<参考文献>
1.「1980年以降における木造専用住宅の寿命の推移」堤洋樹・小松幸夫/日本建築学会計画系論文集/580号/pp.169-174/2004