建物の寿命の研究

建物、特に住宅の寿命の研究は戦後直後の住宅難を背景として1950年頃から活発に行われ、今日の研究の基礎となっている。その後長い間まとまった研究は見られなかったが、1980 年代に入ると小松らにより各種の建物について平均寿命の算定が行われることになる。今回は建物の寿命に関する研究の中から主要な研究について、その概要を明らかにしたい※1。

「木造住宅の耐用年限」
第二2次世界大戦直後から、建設省(現国土交通省)建築研究所・第一研究部長の新海を中心に木造住宅のフィールドワークを積極的に行うなど、耐用年数に関わる実態調査を行っている。新海らによって1940年代後半から行われた調査研究は、いわゆる保存活動ではなく耐用年数を念頭に置いた研究の先駆けであったと考えられる。これらの調査に関わった研究者によって1950年頃には建物の寿命に関する分析や算出手法がいくつか発表されている。

「家屋耐用年限」
1948年に東京大学第2工学部(当時)の伊藤は年齢別解除率(家屋年齢に対応した滅失率)」および「年齢別建築率(家屋年齢に応じた家屋の新築率)」という概念を導入して年齢別残存率を求める算出手法を発表した。家屋耐用年数を算出するため一種の定常状態にあるような家屋群を想定し、「家屋総数ならびに年齢別建築率、年齢別解除率が長期に至って一定である家屋群」を「定常家屋群」、「常に一定の増加率(又は減少率)で増加しつつある家屋群」を「安定家屋群」と2つに分類して「家屋函数」を求めている。

その後仮定した2つの家屋群は「共に現実にはほとんど存在することがないような、家屋群である」として、「どんな増加率の変化があってもかまわないのですが、他の係数についていくつかの条件がある」第3の家屋群「一般家屋群」の残存率を求める手法を提案している。1950年には奈良市の民家調査の結果を基に、家屋年齢別の累加度数図から耐用命数を30年、60年、100年、150年と算出されている。さらに全戸数の50%にあたる累加中央値(25年)の2倍にあたる50年を建築相対年数と呼び、当時の新築される速度に対して現在の総戸数を維持するために必要な耐用命数としている。1953年にはこれらの研究成果をまとめた「家屋耐用年限理論」を発表している。

「平均余命としての家屋耐用年限」
1953年には建築研究所の谷によって耐用年限値を求める手法が発表される。「家屋群の維持が定常状態にあるときは年令分布曲線の反曲点が耐用年数年限値のモードに当たるのでここから耐用年限を推定しえるのであるが、実際には家屋の状況が構造・環境・維持その他の条件が複雑多様であるために年令分布曲線において明らかな反曲点をつかむことがむつかしい場合が多い」として、平均余命数の概念を導入するとしている。また、この理論では人口変動が家屋の年齢分布に与える影響を重視し、家屋とみなすために人口比率による補正によって定常状態にある家屋の年齢分布を得ることができるとしている。

結果として、20歳の住宅は33.7年(耐用年限53.7年)、40歳では38.2年(耐用年限78.2年)となっている。また、各都市の平均余命数の経年変化の違いから4つに分類しているが、特に「始めはやや低下するか水平に推移して後年に上昇するもの」が最も多い型であるとしている。また、「統計上の偏歪や各種の誤差をかなり含んでいるのでそのまま使用することは危険」であるとしているが、「特に長命家屋について余命数の推量から評価作業を容易」にする方法であるとしている。

「固定資産台帳による平均寿命」
実は現在でも一般的な統計資料では、建物の寿命を算出するために必要なデータが揃わない※2。特に滅失された(取り壊された)建物に関しては信頼できる統計資料が存在しないのが現状である。そこで建物の寿命の算出に固定資産税の課税に使用する固定資産台帳を用いた研究が行われている。

1950年代には新海らにより除却建物(滅失により固定資産台帳から除かれた建物)の平均年齢を住宅の寿命として算出している。この方法は建物の最大年齢を超える年数にわたる資料が存在し、かつ年間の新築棟数が定常的でほぼ一定だと見なせる場合には有効な方法である。しかし、わが国は第2次世界大戦時に多くの建物が損壊されているため戦前の建物が少なく、景気や政策によって建物の新築棟数が大きく変化していることから、除却建物の平均寿命が現状の平均寿命よりも短い結果となると予想される※3。

その後耐用年数の算出方法について特に目立った研究はなかったが、1980年代に入ると東京大学内田研究室の加藤・小松らによって固定資産台帳を活用した研究が再び行われる。人間の平均余命の計算方法や信頼性工学の方法から勘案して、固定資産家屋台帳と同除却台帳から得られる建物の年齢別データに基づいてその残存率曲線を導き平均寿命を算出する手法を提案し、実態調査に基づく分析結果を報告している。これらの手法では現存している住宅を考慮に入れた平均寿命が推計できるため、今日の建物の寿命を考察するには最も適した手法であると考えられる。

なお小松はその後も平均寿命の算出方法を見直し、残存率曲線を理論曲線へ当てはめる手法を確立している(文献3)。今後は小松による建物の平均寿命の算出手法を用いて、住宅の寿命の実態について考察していきたい。

※1 今回の内容は文献1の第1章「序論」の内容を基に書き直したものである。なお、「寿命」「耐用年数」「耐用年限」などの用語については各研究の用法に従う。
※2 詳細については次回以降に述べる予定である。
※3 結果的にサイクル年数と同じ傾向の結果となる。

<参考文献>
1.「戸建住宅の寿命と建て替え要因に関する研究」堤洋樹/早稲田大学博士論文/2003
2.「社会資産としての建築の建物のあり方を考える」1992年度日本建築学会建築経済部門研究協議会資料/日本建築学会/1992
3.「建築寿命の年齢別データによる推計に関する基礎的考察」小松幸夫/日本建築学会計画系論文報告集第439号/pp.91-99/1992

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