建物の持続可能性

建物の寿命や長寿命化に関しては様々な視点から考察することができるが、ここでは建物と持続可能性の関係について考えていきたい※1。まずは長寿命化に向けた設計について、これまでの歴史を振り返る。

建物の耐久性や耐用性への関心は今に始まったものではなく、建築材料の耐久性に関する研究は1870年頃から行われていた。当時は建物の寿命は建物を構成する建築材料の耐久性により決定するという考え方が中心であり、基本的に建物は半永久的に使用できると考えられていた。そのため設計時点で建物の長寿命化を検討したとしても、材料の吟味程度であったと考えられる。もちろん建築材料の腐朽や腐食など劣化を抑制する手法については今日でも様々な研究が行われている。

しかし1960年代になると第2次世界大戦直後に大量に建設された劣悪な住宅の自然崩壊が起こるため建物の耐久性が大きな社会問題となる。さらに建築材料だけではなく建物の使用可能年数に対する関心が高まり、例えば1961年には建築学会から「建物の耐久設計Ⅰ、Ⅱ」が刊行されている。また既に述べたように同時期には建築雑誌で「耐用年限特集」が組まれ、建物の寿命は「物質的命数」ばかりでなく「社会的命数」によって決定する「耐用性」という概念と、社会的要素や経済的要素を踏まえた建物の寿命が論議されるようになった。しかし高度経済成長の真っ只中だったこともあり、一般的な建物では30年から40年程度の耐用年数が適切であるという見解が中心であった※2。なおこの頃からオープンシステム・モジュール論・部位(BE) 論といった設計・生産・性能面から建物生産の改善に取り組む手法が活発に研究されている。

1980年代になると高度経済成長時に建設された劣悪な建物の耐久性が社会的な問題となる。この時期には住宅によるオープンシステムの実現を目指した建設省(現国土交通省)による「センチュリーハウジングシステム(CHS)」を始め、建築研究所の小林らによる「つくば方式」や京都大学の巽らによる「2段階供給方式」など設計や法制度を考慮した長寿命住宅を目指した開発研究が進んだ。しかし好景気に支えられた建築業界は新しい建物の建設に手一杯で建物の長寿命化まで意識が回らない状態であった。

その後の建築界はバブル景気とその後の景気低迷を経験することになる。建築学会でもこれらの深刻な情勢を受け1998年には「建物の耐久計画に関する考え方」を刊行するなど、ようやく建物の耐用年数という時間軸を設定して設計を行う手法が広く一般にも認識される。例えば住宅建設についてはオープンシステムやCHSの考え方を基に建物の躯体と居室部分に分割し、躯体そのものの耐久性を高め長寿命化を目指すサポート(スケルトン)インフィル住宅、いわゆるSI住宅が注目を浴びるようになる。現在では耐震改修や設備改修を始め、リノベーション(用途変更)に伴う全面改修、躯体を補強しつつ全く新しい建物に改修する「リファイン建築(建築家・青木茂が提唱)」など、これまで利用者の要求に対応できずに取り壊されていた建物を再活用する大規模改修の手法が確立されつつある。

一方資源やエネルギーの観点からも建物の長寿命化への対応が迫られている。地球環境の観点から建物の長寿命化に向けた取り組みは、1990年代に入り持続可能性(サステナビリティ)という概念が広く認識された頃からだと考えられる。

持続可能性という概念は、環境問題が世界共通の課題として認識され始めた1970年代に広がり始めた。特に1972年のローマクラブによる「成長の限界」の中で、人口増加や環境汚染などの現在の傾向が続けば100年以内に地球上の成長は限界に達すると警鐘を鳴らしたことで、地球環境に対する関心が世界的に高まることになる。その後1980 年代に入ると熱帯雨林の減少・オゾン層破壊・地球の温暖化などの報告が次々と行われ、国際社会において地球環境の危機的な状況が認識されるようになった。しかし全世界的な環境問題は因果関係が不明確でその加害者を特定できなかったことなどから、1980年代後半まで具体的な対策は取られなかったこともあり、一般に広まることはなかった。

しかし1987年の国連においてバートランド委員会の報告書「われら共有の未来」の中で「持続可能な開発」とは「来るべき世代が我々と同様の水準の生活を享受するために十分だけの資源を残すこと」と明記したことで、「持続可能性(サステナビリティ)」という概念が広く知られることになる。この持続可能性という概念は建築界でも認識されることになり、「サステナブル・コンストラクション」「サステナブル・ビルディング」といった取り組みが欧米諸国を中心に盛んに行われることになる。そして1990 年代に入ると日本でも環境分野を中心にさまざまな取り組みが活発に行われるようになり、「サステナブル」という言葉も広く普及することになる。

実は「持続可能性」という概念には、その対象となる範囲が広いこともあり明確な定義はない。そのため建築では「環境共生」や「省エネルギー化」と同義で使われている場合もあり、人によって定義が異なることが多い。このような状況を受けて建築学会では「サステナブル・ビルディングとは、地域レベルおよび地球レベルでの生態系の収容力を維持しうる範囲内で①建築のライフサイクルを通じての省エネルギー、省資源、リサイクル、有害物質排出抑制を図り、②その地域の気候、伝統、文化および周辺環境と調和しつつ、③将来にわたって人間の生活の質を適度に維持あるいは向上させていくことができる建物」と定義している。

そして地球環境への負荷を削減するため、建物のライフサイクル(建設から取り壊しまで)における地球環境に与える負荷を評価するLCA(ライフサイクルアセスメント)の視点から、建築設備の性能向上に加え屋上緑化・高気密工断熱・空調や照明の制御などによる省エネルギー・省資源を目指した様々な研究が行われている。当然これらの研究成果は建物の設計・施工・維持などの手法に強い影響を与え、同時に環境負荷削減のため法整備が急激に進めれた。現在では建物の持続可能性を考慮せずに設計・建設することは許されない状況となっている。

※1 今回の内容は文献1の第1章「序論」の内容を基に書き直したものである
※2 「建物の寿命に対する認識」(2月15日エントリー)参照のこと

<参考文献>
1.「戸建住宅の寿命と建て替え要因に関する研究」堤洋樹/早稲田大学博士論文/2003
2.「サステナブル・ビルディングに関する国内外の動向調査と提言」日本建築学会地球環境委員会サステナブル・ビルディング小委員会/2001

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