法定耐用年数の影響

今回は「法的な」耐用年数について考えていきたい。法的な耐用年数である「法定耐用年数」は社会的耐用年数の1つと考えることもできるが、法的な拘束力を持つため建物の寿命に大きな影響を与えている。

建物・設備・自動車など経済的に価値が高く長期使用に耐える資産である「減価償却資産」に対する課税のため、時間とともに減少する価値を算出し各年度に費用配分していく計算の基準として法定耐用年数が定められている。 法定耐用年数はその性格上納税額に影響を及ぼすため、税法上「資産の種類」「構造」「用途」別に耐用年数を詳細に定めて恣意性を排除している。つまり法定耐用年数とは減価償却資産が利用に耐えると考えられる法的な年数であり、減価償却資産への課税の公平性を図るために設けられた基準である。

さて法的耐用年数を定めているのは「減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四十年三月三十一日大蔵省令第十五号)」であるが、その主な沿革を振り返る。

明治32年(1899)に第一種所得税として法人課税が創設されるが、当時は評価減を除いて資産の価額を下げる(減価償却する)ことを認めていなかったため、納税者と税務当局の間に論争が起こっている。明治36年(1903)には東洋汽船株式会社訴訟などの行政訴訟で国側が敗訴したため船舶など限定的に減価償却が認められたが、建物の減価償却は認められていない。

大正7年(1918)の「固定資産ノ減価償却及時価評価損認否取扱ノ件(主秘第177号通牒)」では減価償却に関する税務上の取扱いが税務当局内部で示される※1。内部資料ではあるものの耐用年数表(当時は「堪久年数表」)が定められるなど次第に減価償却の取扱いが明確化している。ちなみに建物については事務所住宅用・工場倉庫用・付属建物の3用途に加え構造材別に耐用年数が定められ、事務所住宅用の鉄骨鉄筋コンクリート造は100年、同じく石造は50年となっている。

その後昭和26年(1951)には「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の前身である「固定資産の耐用年数等に関する省令(昭和二十六年大蔵省令第五十号)」が制定された。減価償却資産の範囲を明確にし、償却方法の追加や増加償却の創設や青色申告法人の償却不足額の5年間繰越などの大改正が行われている。当時の耐用年数は鉄筋コンクリート造住宅の場合、躯体の鉄筋コンクリートは「中性化が終わったときを持って効用持続年数が尽きたるものと考えるを適当と認める」として150年という耐用年数を設定している。同様にアスファルト防水20年、本仕上の床30年、タイルもしくはモルタル仕上の外装30年、スティールサッシ30年などとなっている。また木造については、玉石打ち込みコンクリート布基礎で主柱3.5 寸角の構造体を50年、建具20年、屋根50年、水回り軸組み25 年となっている※2。

そして昭和40年(1965)には「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」として全文改正が行われた※1。平成10年(1998)には同年度以後に取得された建物の償却方法は定額法のみとなったが、さらに平成19年(2007)には従来の定率法・定額法ではなく250%定率法が採用され早期償却が可能となった※1。なお耐用年数表は今日までに何度か見直しが行れているが、現在(平成20年時点)の住宅の法定耐用年数は、木造22年(モルタル造の場合20年)、鉄骨造19年(軽量鉄骨の場合、鉄骨の厚さに応じて27年・34年)、鉄筋コンクリート造47年、となっている。また事務所については、木造24年(モルタル造の場合22年)、鉄骨造30年(軽量鉄骨の場合、鉄骨の厚さに応じて38年・41年)、鉄筋コンクリート造50年、と住宅より数年長い。

法的耐用年数の算定方法は、建物を構造部分別に分解し、各部位のコストとその耐用年数から年当たりの償却費を算出し、それを合計することで建物総体の年間の償却費を求める。この総償却費で建物の総コストを割ったものを耐用年数と見なしているため、大蔵省令を改定する際の物価や各部位の耐用年数の設定によってその値は大きく変わってくることになる。しかし実際は物価や各部位の耐用年数の設定以外にも法定耐用年数に影響を与える要因が存在する。なぜなら行政側は長期的かつ安定的な固定資産税を確保するため法定耐用年数をできるだけ長期間に設定したいが、民間側は減価償却期間が長いほど納税額が増えるため法定耐用年数をできるだけ短期間に設定してほしいと考えるからである。

このように法定耐用年数は行政と民間の駆け引きによって決まるため、実際の耐用年数とは必ずしも一致しない。しかし現実は法定耐用年数によって納税額が決定されるので、特に商業施設など営利を目的としている建物では耐用年数や寿命を決定する重要な指標となる。そして法定耐用年数を過ぎた建物は税法上だけでなく経済的にもほぼ「資産価値=0」であり、取り壊されても仕方がないと見なされることになる。

経済的な側面を考慮せずに法定耐用年数を定めることはできない。しかしすぐに資産価値がなくなってしまう建物を誰が長期間費用をかけ大事に維持しようと思うだろうか。特に木造・鉄骨造住宅の20年程度という法定耐用年数は、「日本の住宅の寿命は30年程度」という一般的な感覚から見ても短かすぎではないだろうか。法定耐用年数が直接建物の寿命を決定するわけではないが、建物の耐用年数を延ばすには法的な整備と支援が経済的な側面からも重要になる。実は建物の法定耐用年数は改正を重ねるにつれ短くなる傾向にあるが、現状以上の建物の長寿命化を実現するには建物そのものの耐用年数だけではなく法定耐用年数の延長を前提とした税法上の見直しが不可欠であろう。

※1 「建物の寿命に対する認識」(2月15日エントリー)と照らし合わせてみると、省令が大きく転換する時期は日本人が建物の寿命を認識した時期と考えられる1910年頃・1960年頃・1990年頃とほぼ一致している。

<参考文献>
1.「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」法令データ提供システムHP
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S40/S40F03401000015.html
2.「税法上の減価償却制度の沿革-耐用年数を中心とした一考察-」白石 雅也/税務大学校論叢 論叢15号/1982 http://www.nta.go.jp/ntc/kenkyu/ronsou/15/129/ronsou.pdf

耐用年数と寿命の関係

耐用年数と寿命の概念については既に説明しているが、今回は耐用年数と寿命の関係を少し掘り下げて考える。なお改めて確認になるが、住宅の耐用年数とは「建物やその部材に要求される性能を維持する能力をもつ期間」であり、住宅の寿命とは「竣工時点から取り壊しが確認された時点までの期間」として話を進めていきたい。

まず耐用年数は一般的に物理的耐用年数・社会的耐用年数・経済的耐用年数と大きく3つに分けられる。その概念をより理解するため外壁を例を挙げて説明する。

物理的耐用年数とは材料そのものの耐用年数だと考えてよい。例えば外壁は常に雨風にさらされ、直射日光による紫外線を浴び、日中と夜間で温度差が生じる為に膨張収縮を繰り返す。また木材であれば腐朽やシロアリの被害、コンクリートであれば中性化、鉄骨であれば錆びなどの影響で外壁を構成する材料(外壁材)は時間が経つにつれ次第に劣化していく。最終的には外壁材の割れ欠けやズレなどが生じて、建物外部から内部に侵入する雨風などを遮るという外壁に要求される性能は失われる。つまり外壁の物理的耐用年数とは、外壁材が材料の劣化に耐えられる最大の期間である。そして同じ理由で外壁が取り除かれるまでの期間を外壁の物理的寿命と考えることもできる。

社会的耐用年数とは所有者側の理由による耐用年数だと考えてよい。外壁は物理的耐用年数が来てなくても、汚れや色落ちなどによって外観が古くみすぼらしくなった気がしてしまう。また例え性能的な劣化が無くても新製品や周囲の環境と比べて見た目や機能などが低いと感じると、新しい外壁にじたいと考えるようになる。いわゆる陳腐化が進むと、物理的耐用年数に係わらず更新したいと考えるのが一般的であり、最終的には見た目や機能が良い外壁材に取り替えられる。つまり外壁の社会的耐用年数とは、所有者が外壁材の陳腐化に耐えられる最大の期間である。そして同じ理由で外壁が取り除かれるまでの期間を外壁の社会的寿命と考えることもできる。

経済的耐用年数とは維持改修費に影響される耐用年数だと考えてよい。費用をかけて補修・改修を行えば外壁の物理的・社会的耐用年数をある程度延ばすことが可能になる。しかしいわゆる維持改修費は外壁の劣化が進むにつれて増加する傾向があるため、ある時期を超えると維持改修費を負担できなくなり、最終的には物理的・社会的耐用年数のため取り壊されてしまう。つまり外壁の経済的耐用年数とは、外壁材が維持管理費の積み上げによって要求性能を維持できる最大の期間である。そして同じ理由で外壁が取り除かれるまでの期間を外壁の経済的寿命と考えることもできる。

耐用年数と寿命の関係で重要なポイントは、一般的に耐用年数は寿命よりも短いこと、そして寿命を決定する要因だということである。建物では予想外の環境や施工不良によって耐用年数の方が寿命より長い場合や耐用年数が過ぎても取り除かれずなかなか寿命にならない場合もあるが、普通は耐用年数に合わせて維持改修もしくは撤去が行われる。何らかの理由で耐用年数が過ぎても放置されている建物は寿命が来る前に廃墟と化す。つまり建物の長期的な有効活用のためには、耐用年数をいかに延ばすかが重要な課題となる。

では耐用年数に対して私たちはどう対応すべきか。前述の外壁の物理的・社会的・経済的耐用年数を改めて確認していただけば、実は耐用年数は外壁全体ではなく外壁材の問題であることが判明する。なぜなら外壁は様々な外壁材から構成されているため、かなりの年数が経過しない限り外壁全体の耐用年数が同時に来ることはない。つまり耐用年数が短い外壁材を適切に補修・改修すれば外壁全体の耐用年数は延びる可能が高い。もちろん建物全体の耐用年数も同様で、仮に外壁全体の耐用年数が来てもそれは建物全体の耐用年数ではないだろう。さらに物理的・社会的耐用年数と経済的耐用年数の関係を見逃すことはできない。物理的・社会的耐用年数は繰り返しもしくは定期的な補修・改修を行うことで更に延びる可能性は高い。つまり建物の寿命は経済的耐用年数の影響が最も強いので、維持改修を実行することが建物の長期有効利用の第一歩である。

建物の有効な長期使用には経済的耐用年数を延ばすことが必要である。これまでのスクラップ&ビルドは物理的・社会的耐用年数が来たら建物全体を取り壊し、新しい建物を建てることにより要求される性能を満たしてきた。しかし今後は経済的耐用年数を前提に建物の管理を行うこと、つまり維持管理費を十分に確保し要求される性能を解決する補修・改修を適切かつ計画的に行うことが要求される。当たり前ではあるが、建物の長期有効活用そして長寿命のためには適切な維持補修が不可欠であり、そのためには費用が必要になることを忘れてはならない。

<参考文献>
1.「建築物の耐久計画に関する考え方」日本建築学会/丸善/2002

住宅のストックの推移

ここでは日本の住宅ストックの現状と、その推移について確認をしたい。まずは5年毎に行われる「住宅・土地統計調査」の最新情報(2003年時点)を文献1より引用する。

★総住宅数は5389万戸、5年間で7.3%増加
平成15年の総住宅数は5389万戸、総世帯数は4726万世帯となっています。平成10年調査の結果と比べ、総住宅数は364万戸(7.3%)、総世帯数は290万世帯(6.5%)、それぞれ増加しました。また、1世帯当たりの住宅数は1.14戸と平成10年の1.13戸を上回りました。
第1回調査が行われた昭和23年の総住宅数は1391万戸でしたので、その後の55年間で約3.9倍に増えたことになります。
戦後の住宅不足を解消するため、「公庫・公団・公営住宅」のいわゆる住宅政策の3本柱が昭和30年までに整えられ、住宅建設が進められてきました。その結果、昭和48年にすべての都道府県において住宅数が世帯数を上回りました。その後は、住宅建設五箇年計画において、ゆとりある住生活の実現や住環境の着実な改善が進められ、平成18年には、少子高齢社会、本格的な人口・世帯減少社会の到来を目前に控え、現在と将来の国民の豊かな住生活を実現するため、住生活基本法が制定されました。

★空き家は、引き続き拡大
少子高齢化が進み、人口減少社会が現実のものとなりつつある中、総住宅戸数が総世帯数を上回り、 空き家の増加が続いています。
空き家率(総住宅数に占める空き家の割合)は昭和38年以降でみると、一貫して上昇を続け、平成10年に初めて1割を超え、11.5%(576万戸)となり、平成15年には12.2%(659万戸)となりました。

★共同住宅の割合は、引き続き拡大
住宅の建て方別割合の推移をみると、一戸建の割合が昭和53年の65.1%から平成15年の56.5%へ縮小し、また、長屋建も9.6%から3.2%へと大きく縮小しています。これとは反対に、マンションなどの共同住宅は、24.7%から40.0%と大幅な増加となり、住宅の集合化が引き続き進んでいることがわかります。

2008年度の調査結果におけるデータ及び詳細な分析はまだ発表されていないため、2003年度の調査結果を確認すると、住宅総数4686万戸のうち一戸建が2649万戸(約57%)、共同住宅が1873万戸(約40%)を占めている。また一戸建では木造・防火木造が約93%を占めるが、共同住宅では非木造が約84%を占めている(文献2)。近年は共同住宅の割合とともに非木造の割合が増える傾向が見られるものの、木造専用住宅は日本の住宅ストックの約半数を占めていることから、今でも木造専用住宅が日本の代表的な住宅であるといえるだろう。

さらに詳しく住宅ストックの推移を見ていく。第2次世界大戦後直後の極度の住宅ストック不足とその状況を打破すべく打ち出された「公庫・公団・公営住宅」を中心とした住宅政策については前回も触れているが、その後の日本経済の立ち直りとともに住宅ストックの充実が図られる。1968年の調査では調査後初めて住宅総数が総世帯数を超えたが、その後も着実に住宅ストックを積み重ねていく。2003年には住宅総数が総世帯数を663万戸上回り、空き家数も659万戸(空き家率12.2%)まで一気に増加している(文献3)。2003年以降は景気の低迷により住宅着工数は一時期よりも減少しているものの、2008年は109万戸と現在でも100万戸を超える住宅が建設されていることから、空き家も増え続けていると考えられる。少なくとも数から見れば、現在の日本の住宅ストックは充足しているといえる。

一方これまで住宅の新築が中心だった住宅産業の今後の先行きは暗い。既に充足している住宅ストックに加えいつ回復するか分からない景気、そして高齢化・少子化による人口と世帯数の減少を考えると、新築住宅の減少は避けられない。近年の景気減少に伴い現在でも持ち家率の増加による経済効果を見込んだ積極的な住宅政策が行われているが、住宅ストック自体は既に充足しているのでその効果はあまり期待できない。また人口は2004年の1億2779万人を境に既に減少が始まり2030年には1億1522万人と約1260万人もの減少が予測されているが、総世帯数も2015年の約5060万世帯頃を境に減少し2030年には4880万世帯程度になると予測されている(文献4)。今後の総世帯数の増加を考慮しても既に存在する住宅ストック数を維持するだけでほぼ十分まかなえるので、仮に景気が上向いても今後新築住宅の着工数が再び増加する可能性は低い。今後は新築住宅の着工数を毎年100万戸以上維持するのは難しくなるだろう。

既に社会問題にもなっているように、新築住宅の着工数は今後確実に減少に向かう。もちろん住宅の充足とは単純にストック数の問題ではなく、質が低い住宅ストックは今後も継続的に更新する必要がある。また一定以上の空き家数は、転勤などによる住み替えや中古住宅の流通のために必要である。例えどんな経済・社会状況でも新しい家が欲しいという人はいるだろう。そのため今後新築住宅の建設が全く無くなるとは考えにくいが、経済的・社会的にも既存ストックの活用がこれまで以上に要求されるのは間違いない。そして新築の建設が中心だった住宅産業は、ストックの活用を中心に産業構造を大きく転換する時期が来たのである。

<参考文献>
1.「平成20年住宅・土地統計調査のはなし」総務省統計局HP http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2008/hanashi/index.htm
2.「平成15年住宅・土地統計調査」総務省統計局HP http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2003/index.htm
3.「建築着工統計調査報告(平成20年計分)<報道発表資料>」国交省HP http://www.mlit.go.jp/report/press/joho04_hh_000062.html
4.「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)」国立社会保障・人口問題研究所HP http://www.ipss.go.jp/
5.「日本の世帯数の将来推計(全国:2008年3月推計)」国立社会保障・人口問題研究所HP http://www.ipss.go.jp/

建物の寿命に対する認識

現在の日本の建物を論ずる上で外すことができない話題の一つに、建物を壊しては建て、建てては壊す「スクラップ&ビルド」という現象が日本全国で見られるという事実がある。この現象が起こる背景には様々な理由が考えられるが、ここでは日本人の建物の寿命に対する認識を取り上げる。そもそも日本人は過去どのように建物の寿命を認識し、壊しては建てるという行為を繰り返してきたのか。

私は日本人が建物の寿命を認識した時期が今日までに3回ほどあったようである。その時期とは、明治初期に建てられた洋風建築が壊され始めた1910年頃、耐用年数が話題になる1960年頃、そしてバブル景気が弾けた1990年頃である。当時の詳細は文献1に詳しい※1が、この3時期を中心に日本人の建物の寿命に対する認識の移り変わりを明らかにしたい。

その前に、近代以前の日本人の建物の寿命に対する認識はどのようなものだったのだろうか。例えば20年に一度行われる伊勢神宮の式年遷宮を例にとり、日本人は古来より建物本体ではなく形式の永久性を重視しているので、日本の建物の大多数を占める木造建築は寿命は短くて当然といった俗説をよく聞くが、その認識は日本の木造建築の実態とはかけ離れている。確かに神社仏閣などの木造建築は解体修理を繰り返すことで長い寿命を得ているが、その周期は100年程度が基本であり、概して短い期間ではない。伊勢神宮の式年遷宮は特例であり、20年という周期は儀式的な意味が大きいと考えたほうが自然だろう。また住宅を始め一般的な木造建築も、程度の差はあれ修理を繰り返せばいつまでも使えるという認識が一般的だっただろう。つまり近代までは建物の寿命という認識はなく、機能的な問題があっても基本的には修理を重ねて使い続けていたと考えられる。

さて日本人の建物に対する認識が最も大きく変わったのは、恐らく明治期だろう。明治維新後に欧米諸国の近代化という概念が一気になだれ込み、それまでの日本人の価値観は建物に対する認識を含め大きく転換したに違いない。同時に近代国家に相応しい社会基盤として洋風建築が東京を中心に次々と建てられた。その後1923年(大正12年)に関東を襲った関東大震災によって多くの建物が崩壊したため当時の建物はほぼ現存しないが、実は明治末期(1910年頃)に東京のランドマーク的な洋風建築がいくつも取り壊されている。例えば1872年(明治5年)に建設された新橋停車場は、わずか37年後の1909年(明治42年)に東京中央停車場(現東京駅)の建設に伴い取り壊された。このような現象は老朽化や明治維新後の政治的な取り壊しとは異なり、その多くはただ機能的に不要だからという理由であったと考えられる。そのため写真記録や機能転換を含めた論議など現在の保存運動に繋がる活動も行われたが、その対象は洋風建築という特別で重要な建物群であり、恐らく一般的な建物は全く想定されていないだろう。つまり歴史的な価値が問われる建物については保存活動という形で寿命が認識されることになったが、一般的な建物については近代以前と同様に寿命という認識はなかったと考えられる。

第2次世界大戦を経て1960年頃になると、建物の機能性や「耐用年数」に対する論議が活発になる。戦後直後は極度の建物不足と建設費の高騰のため老朽化した建物でも使用されていたが、復興が進むにつれてそれらの建物の老朽化が問題化してくる。さらに慢性的な住宅不足の解消を目指した大量生産・大量供給※2に伴い住宅の質が問題になる。例えばその頃、不燃化・高層化に加え半永久的な都市の構築に相応しい材料として鉄筋コンクリートが積極的に採用されたが、その耐久性は想像以上に短いことが問題視され始めている。さらに1961年8月号の「建築雑誌(建築学会の機関紙)」では「耐用年数特集」が組まれ、建築計画・構造・設備・都市計画の視点から論議されている。その討論会ではこれまでの建物の寿命に対する認識に疑問が投げかけられ、「記念的な建物」の保存は必要だが、一般的な建物を指す「経済的な建物」の寿命は30年から40年程度が適当であり、将来は20年程度になると締めくくっている。恐らく初めてこの頃に一般的な建物の寿命が陳腐化や設備の普及など使用者の立場から提議され、その後の議論にも大きな影響を与えたと考えられる。またこの時期を境に建物の寿命は耐用年数との関係で語られ始め、同時に建設業界の意図が見え隠れする「スクラップ&ビルド」という方法論が確立したのである。そして「経済的な建物」の代表である住宅の寿命は30年程度が適当、という考え方は高度経済成長による持ち家の普及とともに一般的な認識となっていく。

その後建物のスクラップ&ビルドは景気を刺激する有効な経済活動だと認識されるようになり、積極的な建物の建設とそれに伴う取り壊しが繰り返され、1980年代のバブル景気の時に最盛期を迎える。しかし1990年頃のバブル崩壊と世界的な地球環境への関心の高まりから、建物の寿命が再認識される。スクラップ&ビルドからの脱却が求められるなか、日本の建物の寿命は短かすぎないかという疑問が生まれた現状については既に繰り返し述べているので、ここでは割愛する。

このように一般的な建物、特に住宅の寿命は30年程度、という今日の多くの日本人が持つ認識は日本古来の認識ではなく、高度経済成長以降の新しい認識であろう。その認識が生まれてから50年程度を経て、今ようやく建物の寿命とともに本格的に見直す時期が来たのかもしれない。

※1 本論の骨子は文献1の第4章「歴史の中のライフサイクル概念」である。
※2 県・市などの公営住宅、日本住宅公団(1960年設立)の団地開発、そして住宅金融公庫(1950年設立)による住宅融資、を柱とした住宅政策による大量供給が始まり、1966年の第一期住宅建設五箇年計画では「住宅難の解消」と「一世帯一住宅」を目標に住宅建設計画が推し進められた。

<参考文献>
1.「時間・建築・環境」ライフサイクルマネジメント基本問題特別研究委員会報告書/日本建築学会/1998
2.「社会資産としての建築の建物のあり方を考える」1992年度日本建築学会建築経済部門研究協議会資料/日本建築学会/1992

日本の住宅の寿命は30年?

1996年(平成8年)の建設白書に記載された「日本の住宅の平均寿命は26年」という報告は、住宅の寿命を研究している私たちを始め住宅関係者を驚かせた。その年数が私たちに与えた衝撃はとても大きく、この26年という年数は一気に建設業界を駆け抜け、広く一般に知られることになる。

日本の住宅の寿命は、建築時期別のストック統計から試算してみると、過去5年間に除却されたものの平均で約26年、現存住宅の「平均年齢」は約16年と推測されるが、アメリカの住宅については、「平均寿命」が約44年、「平均年齢」が約23年、イギリスの住宅については、「平均寿命」が約75年、「平均年齢」が約48年と推測され、日本の住宅のライフサイクルは非常に短いものとなっている。
この理由は、日本は戦後急速に住宅ストックを充実させてきている中途の段階にあることや、そもそも住宅ストックの質の低さ、リフォームのしにくさ、或いは使い捨てのライフスタイルに合わせて住宅も建て替えにより対応していることなどが考えられる。このように日本の既存住宅流通量は新築に比べて少なく、大量建設・大量廃棄の構造になっている。これはGDPを押し上げるかもしれないが、良質なストック形成が行われないまま、住み替え需要に的確に応じられず、住生活の充実にコストと手間暇がかかる構造になっていると考えられる。
(第2章第2節より引用)

ではこの平均寿命はどのように算出されたのだろうか。引用文によれば、過去5年間に国内で除却された(取り壊された)住宅の棟数を平均した値を平均寿命として求め、各国の比較を行っているようだ。参考資料が明記されていないので検証できないが、この算出方法の一番の問題点は「寿命と平均寿命の違い」(2月6日エントリー)で既に述べているように、取り壊された建物だけを対象としていることである。そのため26年という年数は平均寿命の実状に比べて短いと考えられる。※1

そこで一般的には、住宅ストック数(存在する住宅棟数)を住宅フロー数(新築された住宅棟数)で割った値を平均寿命として求め、各国の比較を行う方法がよく用いられる。この手法の基本的な概念を式で表すと次のようになる。

平均寿命=ストック数(現存数)/フロー数(増加数)

この式から求められる年数を一般的にサイクル年数と言う。ストック数とフロー数が安定しているという前提であれば、サイクル年数はあるストックが現状のフローによって何年程度で入れ替わるかを予測する目安となる。つまり住宅を建設するのは寿命が終わった住宅を壊した場合のみという前提であれば、このサイクル年数はほぼ平均寿命とみなすことが可能である。しかし日本の住宅ストック数は今でも伸び続け、かつ住宅フロー数は景気の変動にかなり影響されている現状を考慮すると、このサイクル年数を平均寿命とはみなし難い。ただし簡単に求めることが可能であり、かつ国際比較も容易であるため、その結果は平均寿命の概算だと割り切れば有効な手法である。

この住宅のサイクル年数で有名なのは、同じく1996年に発表された「日本30年(1993)、イギリス141年(1991)、アメリカ103年(1991)、フランス86年(1990)、ドイツ79年(1987)」という報告(文献2:現在確認中)である。この他国と比較にならないほど日本のサイクル年数が短い結果を見ても、日本の住宅の平均寿命は欧米諸国に比べて短い傾向にあるのは間違いない。この報告の出典は建設白書だという文献をよく見るが、それも26年にほど近い30年という年数の短さが人々に強い印象を与えているからだろう。ちなみに、1993年の住宅統計調査(現在:住宅・土地統計調査)によると、住宅ストック戸数は4587万8800戸、住宅着工戸数は148万5684戸なので、当時のサイクル年数は30.9年と算出される。

以後、日本の住宅の寿命は欧米に比べて短く30年以下である、という認識が一般的になる。確かに建設後30年程度経過した住宅では、汚れが目立ち、見た目も古くなり、そして雨漏りなどの不具合が生じている住宅が多い。そして実際に建設後30年程度の住宅が取り壊されているのをよく見ることからも、この年数は一般的な感覚と比べても妥当な年数だと考えられている。そのため既に10年以上前の資料にもかかわらず、今でも日本の住宅の寿命としてこの26年もしくは30年という年数を用いて論議されることが多い。

一方で日本の住宅の寿命が30年以下というのは、あまりにも短すぎるという論議が活発に行われるようになった。特にそれまで軽視される傾向があった維持管理やリフォームなどが見直されることになる。また日本と欧米諸国の平均寿命の大きな差が着目され、欧米諸国に比べて日本の住宅は質が低いのではという疑問に始まり、木造だからRC(鉄筋コンクリート)造やレンガ造に比べて寿命が短い、いや昔から日本の住宅の寿命は短くて当然だった、などという話をよく耳にするようになった。

確かに住宅が建設後30年程度で壊される現状を考慮すると、日本の住宅に解決すべき問題が多いのは事実である。しかし今日までの研究結果から、私たちは日本の住宅の平均寿命は30年よりも長いと考えている。そして実はあまり知られていない日本の住宅の実態を、寿命を通して今後明らかにしていきたい。

※1 国土交通省の資料(文献3)では、その後の資料から30年という結果が出ている。ちなみにこの資料では、「新築住宅の平均寿命(最近新築された住宅があと何年使われるかの推計値)とは異なる。」と明記されている。

<参考文献>
1.「平成8年度建設白書概要」国土交通省(当時:建設省)/1996 http://www.mlit.go.jp/hakusyo/kensetu/h8/h8index1.html
2.「我が国の住宅政策と今後の住宅市場」投資月報/日興リサーチセンター/1996
3.「国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会(第14回、2008)参考資料4」国土交通省HP http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/singi/syakaishihon/bunkakai/14bunkakai/14b

長寿命化の必要性

建物の寿命が話題となる最大の理由は、日本の住宅が短期間で壊されている現状を踏まえると、今後は住宅の長寿命化が不可欠であるという前提があるからだろう。しかし、それではなぜ建物の長寿命化が必要なのだろうか。

近年、建物の寿命の話題は環境問題と共に議論されることが多い。地球環境の深刻な状況は、今や程度の差はあれ誰もが把握している世界的な問題である。特に石油や石炭など化石燃料の燃焼から排出される二酸化炭素(CO2)を始めとした温室効果ガスについては、世界各国でその抑制と削減に向けた対策・政策がとられている。建設業界でも1997年の京都議定書※1が採択された頃から、温室効果ガスの削減に向けた省エネルギー・省資源化が本格的に議論されるようになった。もちろん建物を今まで以上に長く使用すれば、取り壊しや新築の際に使用するエネルギーや資源を抑えることになり、省エネルギー・省資源化ばかりか産業廃棄物そして温室効果ガスの削減に繋がる。つまり現状の環境問題を解決する一つの手段として、建物の長寿命化が再確認されることになった。そして近年の環境問題に対する危機感から、建物の寿命が注目されることになったのは間違いないだろう。

しかしここでは環境問題の視点以外から、建物の長寿命化はなぜ必要なのか、という問いに3つの側面から答えたい。

まずは建物の使用者の経済的な側面である。建物を長期間使うことで、不必要なエネルギーや資源を抑制できれば、そこで必要となる費用も抑制することが可能である。実は建物の長寿命化が近年再評価されたきっかけは、いわゆるバブル景気が崩壊した1990年以後の低迷した社会状況であり、その後の環境問題の盛り上がりに繋がったとも考えられる。これまでの公共施設や住宅に対する政策を見ても建設産業は景気を牽引する中心的な産業であったが、これからは建設産業に対する必要以上の投資は公共・民間とも経済的・戦略的に厳しくなると考えられる。もちろん住宅を始めとする個人資産も同様の傾向が見られ、投資物件の長寿命化による費用対効果の向上が求められる。

つぎに良質な社会基盤の構築という側面である。建物は所有者だけの資産ではなく、その地域を構成する社会的な資産であるため、良質な建物が存在するということは地域全体の社会価値が高まることに繋がる。もちろん建物の長寿命化とは良質の建物を建設するだけではなく、良質の建物を維持することを忘れてはならない。維持管理費の高騰を理由に数多くの歴史ある重要な建物が壊されれているが、その建物の社会的な資産価値以上の建物が新築されることは希である。建物の長寿命化は所有者だけの課題ではなく地域住民の課題でもあるので、建物の長寿命化には地域的な活動も必要となる。

さらに建物は文化継承を担う重要な碑(いしぶみ)という側面である。古来から人々の生活や社会の基盤である建物を通じて多くの文化が生まれ、その地域や国の文化に繋がっていく。そして人々はその生活や社会そして文化を守り続けるため、建物を建設し長い歴史を紡いできた。文化は決して神社や教会といった特殊な建物だけから誕生・継承するのではない。どんなに小さな住宅や倉庫からでも文化は生まれ、伝えられていく。しかしその建物が壊されてしまうと、その建物の生活や社会の記憶と共にそこに存在していた文化の大部分は忘れ去られてしまうのである。

※1 1997年12月に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3、京都会議)で、先進国及び市場経済移行国の温室効果ガス排出の削減目的を定めた京都議定書が採択された。

<参考文献>
1.「気候温暖化への建築分野での対応(会長声明)」日本建築学会/1997 http://www.aij.or.jp/jpn/archives/971202.htm

耐久性と耐用性

本題に入る前にもう一つ、寿命の話の際によく話題になる用語について確認したい。その用語とは「耐久性」と「耐用性」である。

一般的に建築における「耐久性」とは、建物またはその部分の劣化に対する抵抗性※1と定義されている。つまり地震や火災などの災害を除き、物理的・科学的・生物的要因による性能が低下することを防ぐ能力のことを耐久性と呼ぶが、建物が建てられてから壊されるまでに襲いかかる様々な劣化要因に対する耐久性が各部材に必要とされる。例えば、木造住宅の外壁は建物の自体の重さに加え、人間や家具などの荷重に耐えなければならない。また雨や風による水分や汚れにも耐えなければならない。そして腐朽菌やシロアリにも耐える必要がある。そして忘れてならないのが、時間的な耐久性である。あらゆる物質は時間の経過と共に劣化していくが、初期の段階で耐久性が高くても、すぐにその耐久性が低下してしまう材料は多い。

このように、建物の使用年数が延びれば延びるほど劣化要因は増加するため、一般的に住宅の寿命を延ばすためには耐久性が高い材料を使用することが不可欠であると考えられている。しかし現実はどうだろうか。まだ十分使えると思われる建物が実際には壊されていないだろうか。本当に耐久性が問題になるほどの期間、私たちは建物を使用しているだろうか。

建物を長く使用していれば、どんなに丁寧に扱っていても外観は当然ある程度の風化が進み、汚れが目立ち材料によってはみすぼらしく見えるだろう。もちろん、材料自体の耐久性も当初より低くなっているはずだが、破損や亀裂が無ければ物理的・科学的・生物的な要因にまだ十分耐えられると考えられる。また仮に劣化が進んでいたとしても、部分的であれば交換や補修など技術的な解決方法により全体の耐久性を復元させることが可能である。しかし実際には、デザインが古いとか、狭いとか、バリアフリーではないとか、耐久性とは関係ない理由で多くの建物の寿命が決まってしまう場合が多い。この場合、要求されていた性能が劣化したのではなく、要求自体が変化したために建物が寿命が来て取り壊されたと考えることができる。

そこで私たちは、建物やその部材に要求される性能を維持する能力を「耐用性」と呼び※2、その能力を維持できる期間を示す耐用年数について研究を行っている。建物内では人間が活動しているため、特に安全性能などが要求される性能よりも低いと判断されると、何らかの補修や改修を行わない限り一般的には取り壊されてしまう。つまり建物を取り壊す理由の多くは耐久性の問題ではなく耐用性の問題であり、そのため建物の耐用年数は建物の寿命にとても大きな影響を与えているのである。耐久性を含め建物の部材に要求されていた性能は確保しても、使用者の一方的な要求条件の変化が建物の耐用年数、そして寿命を縮めている実態にどう対応すれば良いのか、これこそが建物の寿命を論じる最大の要点となる。

※1 文献1より引用(建築物を建物に統一)した
※2 文献1では「建築物またはその部材が機能を持続して維持する能力」を耐用性としているが、一般的な概念と少し異なるため修正した

<参考文献>
1.「建築物の耐久計画に関する考え方」日本建築学会/丸善/2002

寿命と平均寿命の違い

ここでは、寿命の話をする上で誤解が多い「平均寿命」について、人間の平均寿命を例に確認したい。

人間の平均寿命とは0歳児の平均余命のことであり、平均余命とはある集団に生まれた男女が平均して何年生きられるかの期待値である。つまり、平均寿命とは、その年に生まれた男女が平均して何歳まで生きるかを予測した年数であり、その年以前に生まれた男女が平均的して何歳まで生きるかを予測した年数ではない。

分かりやすくするため、具体的な例をあげると次のようになる。ここに80年前に生まれ、20歳、50歳、そして今年80歳で亡くなった3名の男性がいると仮定する。この3名の平均寿命は、それぞれの亡くなった年齢を平均した50年である、という結果には誰もが納得いくであろう。しかし、80年前に生まれ、20歳と50歳で亡くなった方、そして今でもお元気な3名の男性の平均寿命を、先ほどと同様に50年とするには少し無理がある。なぜなら、現在80歳の方がまだ亡くなっていないので、その方の寿命も3名の平均寿命も何年になるかその時点では分からないからである。このように、それぞれの寿命を単純に平均した年数を平均寿命にすると、既に亡くなった方だけを対象とするか、現時点の年齢を寿命と見なして対象に加えることになるため、求められた平均寿命はどちらも現状より短くなってしまうことが懸念される。

そのため、人間の平均寿命(0歳児の平均余命)は一般的に生命表を用いて推計される。生命表とは、ある年における死亡状況がその後も変化しないと仮定したときに、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や平均してあと何年生きられるかという期待値などを死亡率や平均余命などの指標(生命関数)によって表したものである。生命表の詳細な内容については参考文献に譲るが、現在の死亡状況を基に各年齢の平均余命を推計した結果を表にしたものが生命表であり、その年に生まれた男女の平均余命がその年の平均寿命となる。ちなみに、男性と女性では体のしくみが異なるため、平均寿命は男女別に求められる。

実際の平均年齢を生命表で確認しよう。2006年の日本人の平均寿命は、2006年生まれの男女の平均余命と同じ男性79.00歳、女性85.81歳である。しかし、2006年に20歳(1986年生まれ)である男女の平均余命は生命表から男性59.49歳、女性66.22歳なので、彼らの(平均)寿命は年齢と平均余命を合計した79.49歳、86.22歳となる。ちなみに、1986年当時の平均寿命は男性75.23歳、女性80.93歳と男女ともに2006年と比べて短い。このように、寿命とは何年生きたという結果を示す年数であるが、平均寿命とは一般的に今後何年生きるかという予測を含む年数であるという違いがある。

住宅の平均寿命も人間の平均寿命とほぼ同じ概念である。ある年の住宅の平均寿命とは、その年に竣工した住宅が何年後に取り壊されるかを予測した年数であり、既に建設されている住宅の平均寿命ではないことを踏まえて考察を行う必要がある。

<参考文献>
1.「人口学への招待」河野稠果著/中公新書/2007
2.厚生労働省HP http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life06/index.html

住宅の寿命を明らかにする意味

これから少しずつ、住宅の寿命の実態を明らかにしていく予定だが、その前に、なぜ住宅の寿命を明らかにするのか説明したい。

ここでまた人間の話に戻るが、ある地域に住む人間の平均寿命※1を求めることに、どのような意味があるだろうか。例えば、日本人の平均寿命は男性79.00歳・女性85.81歳(2006年)と、世界でも有数の長寿国であることはよく知られている。国別で平均寿命を比較すると、一般的に高所得国ほど平均寿命が長く、低所得国ほど平均寿命が短いという傾向が見られる。また、医療制度の問題、国内の貧富の格差の問題などが平均寿命に影響を与えていると考えられる。つまり、人間の平均寿命はその地域の社会的な状況を知る重要な指標である。

さらに、人間の平均寿命は今後の人口の変動を予測する人口推計にも用いられる。人口推計は様々な経済・社会推計の内でも精度が高いといわれているが、日本の人口は既に2004年の約1億2800万人を境に増加から減少へ推移し、2030年には約1億1500万人にまで減少すると予測されている。人口の増減は消費に連動するため、その地域の産業に与える影響は大きい。つまり、人間の平均寿命は人口の推移を把握するために不可欠な指標であり、また今後の社会動向を考察する上でも重要な指標である。

それでは、住宅の寿命を明らかにする意味とは何か。住宅の平均寿命とは、人間の場合と同様に、社会的な資産である住宅の実態を把握し、さらに今後の住宅に関する動向を予測する指標になる。つまり、日本の住宅の平均寿命を知ることは、今後の住宅に求められている長寿命化・省資源化の実現に向け、現在の日本の住宅が抱える様々な問題を洗い出すために不可欠な準備作業である。

※1 平均寿命とは厳密には「0歳の平均余命」のことであり、いくつかの寿命を平均して求めた期間ではない。寿命と余命の違いについては、この後に説明する。

<参考文献>
1.「人口学への招待」河野稠果著/中公新書/2007
2.厚生労働省HP http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life06/index.html
3.統計局HP http://www.stat.go.jp/data/nihon/02.htm

そもそも住宅の寿命とは?

一般的に寿命とは、人間が生まれてから死ぬまでの期間のことである。もちろん人間にかかわらず全ての生物には人間と同じように寿命がある。また住宅についても、一旦建設したら永久に存在するわけではないため、住宅にも人間と同じように寿命があると考えることができる。つまり、住宅が生まれてから死ぬまでの時間を住宅の寿命として見なすことが可能だろう。

それでは、住宅が生まれてから死ぬまでとは、具体的にいつからいつまでのことだろうか。例えば人間が生まれた時点とは、卵子が精子を受精した時点なのか、新生児として出生した時点なのか、人によって認識が異なる。また、人間が死んだ時点も、脳が停止した時点(脳死)とするか、心臓が止まった時点とするか、医学界でも議論が分かれている。そのため寿命という概念は、認識の違いによって時間的な幅をもつと考えられる。

住宅の寿命についても、住宅が生まれるのは、企画の段階からなのか、工事を始める着工段階からなのか、それとも建物を使い始める竣工段階からなのか、人によって認識が異なるだろう。また、住宅が死ぬというのは、住宅を使わなくなってしまう段階なのか、取り壊す直前までなのか、もしくは完全に取り壊された段階なのか、議論が必要だろう。

実は、人間の寿命とは一般的に出生から死亡までの期間であるので、新生児として母胎から出生した時点から死亡と確認された時点までの期間を指すことが多い。しかし、住宅の寿命には一般的な定義がないため、その期間は場合によって大きな幅が生まれると考えられる。そこで、住宅の寿命とは竣工時点から取り壊しが確認された時点までの期間として、これからの話を進めていきたい。