住宅の寿命を明らかにする意味

住宅の寿命を明らかにする意味

これから少しずつ、住宅の寿命の実態を明らかにしていく予定だが、その前に、なぜ住宅の寿命を明らかにするのか説明したい。

ここでまた人間の話に戻るが、ある地域に住む人間の平均寿命※1を求めることに、どのような意味があるだろうか。例えば、日本人の平均寿命は男性79.00歳・女性85.81歳(2006年)と、世界でも有数の長寿国であることはよく知られている。国別で平均寿命を比較すると、一般的に高所得国ほど平均寿命が長く、低所得国ほど平均寿命が短いという傾向が見られる。また、医療制度の問題、国内の貧富の格差の問題などが平均寿命に影響を与えていると考えられる。つまり、人間の平均寿命はその地域の社会的な状況を知る重要な指標である。

さらに、人間の平均寿命は今後の人口の変動を予測する人口推計にも用いられる。人口推計は様々な経済・社会推計の内でも精度が高いといわれているが、日本の人口は既に2004年の約1億2800万人を境に増加から減少へ推移し、2030年には約1億1500万人にまで減少すると予測されている。人口の増減は消費に連動するため、その地域の産業に与える影響は大きい。つまり、人間の平均寿命は人口の推移を把握するために不可欠な指標であり、また今後の社会動向を考察する上でも重要な指標である。

それでは、住宅の寿命を明らかにする意味とは何か。住宅の平均寿命とは、人間の場合と同様に、社会的な資産である住宅の実態を把握し、さらに今後の住宅に関する動向を予測する指標になる。つまり、日本の住宅の平均寿命を知ることは、今後の住宅に求められている長寿命化・省資源化の実現に向け、現在の日本の住宅が抱える様々な問題を洗い出すために不可欠な準備作業である。

※1 平均寿命とは厳密には「0歳の平均余命」のことであり、いくつかの寿命を平均して求めた期間ではない。寿命と余命の違いについては、この後に説明する。

<参考文献>
1.「人口学への招待」河野稠果著/中公新書/2007
2.厚生労働省HP http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life06/index.html
3.統計局HP http://www.stat.go.jp/data/nihon/02.htm