耐用年数と寿命の概念については既に説明しているが、今回は耐用年数と寿命の関係を少し掘り下げて考える。なお改めて確認になるが、住宅の耐用年数とは「建物やその部材に要求される性能を維持する能力をもつ期間」であり、住宅の寿命とは「竣工時点から取り壊しが確認された時点までの期間」として話を進めていきたい。
まず耐用年数は一般的に物理的耐用年数・社会的耐用年数・経済的耐用年数と大きく3つに分けられる。その概念をより理解するため外壁を例を挙げて説明する。
物理的耐用年数とは材料そのものの耐用年数だと考えてよい。例えば外壁は常に雨風にさらされ、直射日光による紫外線を浴び、日中と夜間で温度差が生じる為に膨張収縮を繰り返す。また木材であれば腐朽やシロアリの被害、コンクリートであれば中性化、鉄骨であれば錆びなどの影響で外壁を構成する材料(外壁材)は時間が経つにつれ次第に劣化していく。最終的には外壁材の割れ欠けやズレなどが生じて、建物外部から内部に侵入する雨風などを遮るという外壁に要求される性能は失われる。つまり外壁の物理的耐用年数とは、外壁材が材料の劣化に耐えられる最大の期間である。そして同じ理由で外壁が取り除かれるまでの期間を外壁の物理的寿命と考えることもできる。
社会的耐用年数とは所有者側の理由による耐用年数だと考えてよい。外壁は物理的耐用年数が来てなくても、汚れや色落ちなどによって外観が古くみすぼらしくなった気がしてしまう。また例え性能的な劣化が無くても新製品や周囲の環境と比べて見た目や機能などが低いと感じると、新しい外壁にじたいと考えるようになる。いわゆる陳腐化が進むと、物理的耐用年数に係わらず更新したいと考えるのが一般的であり、最終的には見た目や機能が良い外壁材に取り替えられる。つまり外壁の社会的耐用年数とは、所有者が外壁材の陳腐化に耐えられる最大の期間である。そして同じ理由で外壁が取り除かれるまでの期間を外壁の社会的寿命と考えることもできる。
経済的耐用年数とは維持改修費に影響される耐用年数だと考えてよい。費用をかけて補修・改修を行えば外壁の物理的・社会的耐用年数をある程度延ばすことが可能になる。しかしいわゆる維持改修費は外壁の劣化が進むにつれて増加する傾向があるため、ある時期を超えると維持改修費を負担できなくなり、最終的には物理的・社会的耐用年数のため取り壊されてしまう。つまり外壁の経済的耐用年数とは、外壁材が維持管理費の積み上げによって要求性能を維持できる最大の期間である。そして同じ理由で外壁が取り除かれるまでの期間を外壁の経済的寿命と考えることもできる。
耐用年数と寿命の関係で重要なポイントは、一般的に耐用年数は寿命よりも短いこと、そして寿命を決定する要因だということである。建物では予想外の環境や施工不良によって耐用年数の方が寿命より長い場合や耐用年数が過ぎても取り除かれずなかなか寿命にならない場合もあるが、普通は耐用年数に合わせて維持改修もしくは撤去が行われる。何らかの理由で耐用年数が過ぎても放置されている建物は寿命が来る前に廃墟と化す。つまり建物の長期的な有効活用のためには、耐用年数をいかに延ばすかが重要な課題となる。
では耐用年数に対して私たちはどう対応すべきか。前述の外壁の物理的・社会的・経済的耐用年数を改めて確認していただけば、実は耐用年数は外壁全体ではなく外壁材の問題であることが判明する。なぜなら外壁は様々な外壁材から構成されているため、かなりの年数が経過しない限り外壁全体の耐用年数が同時に来ることはない。つまり耐用年数が短い外壁材を適切に補修・改修すれば外壁全体の耐用年数は延びる可能が高い。もちろん建物全体の耐用年数も同様で、仮に外壁全体の耐用年数が来てもそれは建物全体の耐用年数ではないだろう。さらに物理的・社会的耐用年数と経済的耐用年数の関係を見逃すことはできない。物理的・社会的耐用年数は繰り返しもしくは定期的な補修・改修を行うことで更に延びる可能性は高い。つまり建物の寿命は経済的耐用年数の影響が最も強いので、維持改修を実行することが建物の長期有効利用の第一歩である。
建物の有効な長期使用には経済的耐用年数を延ばすことが必要である。これまでのスクラップ&ビルドは物理的・社会的耐用年数が来たら建物全体を取り壊し、新しい建物を建てることにより要求される性能を満たしてきた。しかし今後は経済的耐用年数を前提に建物の管理を行うこと、つまり維持管理費を十分に確保し要求される性能を解決する補修・改修を適切かつ計画的に行うことが要求される。当たり前ではあるが、建物の長期有効活用そして長寿命のためには適切な維持補修が不可欠であり、そのためには費用が必要になることを忘れてはならない。
<参考文献>
1.「建築物の耐久計画に関する考え方」日本建築学会/丸善/2002