ここでは、寿命の話をする上で誤解が多い「平均寿命」について、人間の平均寿命を例に確認したい。
人間の平均寿命とは0歳児の平均余命のことであり、平均余命とはある集団に生まれた男女が平均して何年生きられるかの期待値である。つまり、平均寿命とは、その年に生まれた男女が平均して何歳まで生きるかを予測した年数であり、その年以前に生まれた男女が平均的して何歳まで生きるかを予測した年数ではない。
分かりやすくするため、具体的な例をあげると次のようになる。ここに80年前に生まれ、20歳、50歳、そして今年80歳で亡くなった3名の男性がいると仮定する。この3名の平均寿命は、それぞれの亡くなった年齢を平均した50年である、という結果には誰もが納得いくであろう。しかし、80年前に生まれ、20歳と50歳で亡くなった方、そして今でもお元気な3名の男性の平均寿命を、先ほどと同様に50年とするには少し無理がある。なぜなら、現在80歳の方がまだ亡くなっていないので、その方の寿命も3名の平均寿命も何年になるかその時点では分からないからである。このように、それぞれの寿命を単純に平均した年数を平均寿命にすると、既に亡くなった方だけを対象とするか、現時点の年齢を寿命と見なして対象に加えることになるため、求められた平均寿命はどちらも現状より短くなってしまうことが懸念される。
そのため、人間の平均寿命(0歳児の平均余命)は一般的に生命表を用いて推計される。生命表とは、ある年における死亡状況がその後も変化しないと仮定したときに、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や平均してあと何年生きられるかという期待値などを死亡率や平均余命などの指標(生命関数)によって表したものである。生命表の詳細な内容については参考文献に譲るが、現在の死亡状況を基に各年齢の平均余命を推計した結果を表にしたものが生命表であり、その年に生まれた男女の平均余命がその年の平均寿命となる。ちなみに、男性と女性では体のしくみが異なるため、平均寿命は男女別に求められる。
実際の平均年齢を生命表で確認しよう。2006年の日本人の平均寿命は、2006年生まれの男女の平均余命と同じ男性79.00歳、女性85.81歳である。しかし、2006年に20歳(1986年生まれ)である男女の平均余命は生命表から男性59.49歳、女性66.22歳なので、彼らの(平均)寿命は年齢と平均余命を合計した79.49歳、86.22歳となる。ちなみに、1986年当時の平均寿命は男性75.23歳、女性80.93歳と男女ともに2006年と比べて短い。このように、寿命とは何年生きたという結果を示す年数であるが、平均寿命とは一般的に今後何年生きるかという予測を含む年数であるという違いがある。
住宅の平均寿命も人間の平均寿命とほぼ同じ概念である。ある年の住宅の平均寿命とは、その年に竣工した住宅が何年後に取り壊されるかを予測した年数であり、既に建設されている住宅の平均寿命ではないことを踏まえて考察を行う必要がある。
<参考文献>
1.「人口学への招待」河野稠果著/中公新書/2007
2.厚生労働省HP http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life06/index.html