前回は1980年以降の木造専用住宅の平均寿命について考察を行ったが、「区間残存率推計法」では過去にさかのぼるほど平均寿命を算出することが困難になる。そこで今回は別の方法で1951年以降の平均寿命の推移を分析する(文献1、2)。
平均寿命の算出には「区間残存率推計法」と同様に固定資産家屋台帳の資料を用いるが、各年の建設棟数と残存棟数から残存率を求め、残存率が50%となる期間を平均寿命とした※1。この手法は「区間残存率推計法」と平均寿命の算出方法が異なるため単純に比較はできないが、予測ではなく実数による平均寿命を算出していることから、より現実に近い平均寿命だと考えてよいだろう。しかし残存率を求めるには建設後ある一定期間(基本的に平均寿命以上)のデータが必要となるため、残念ながら近年の平均寿命を求めることができない。
さて大阪3地域における木造専用住宅の平均寿命を1951年から1975年まで算出した結果を見ていく。
中央区の平均寿命は1951年には27.9年、1956年には52.6年、1961年には65.6年、1966年には48.4年、1971年には49.6年、1975年は38.4年という結果であった。建設年によって平均寿命の変動が大きいが、全体的には平均寿命は少しずつ伸びる傾向が見られる。
また東淀川区の平均寿命は1951年には30.7年、1956年には60.2年、1961年には57.3年、1966年には51.2年、1971年には50.1年、1975年は50.0年という結果であった。中央区と同様に建設年によって平均寿命の変動が大きいが、全体的には平均寿命は少しずつ伸びる傾向が見られる。
一方枚方市の平均寿命は1952年には53.4年、1956年には47.7年、1961年には46.7年、1966年には47.7年、1971年には41.5年、1975年は52.5年という結果であった。中央区や東淀川区よりも建設年によって平均寿命の変動が小さく、平均寿命も他の地域と異なりいったん短くなった後伸びる傾向が見られる。
以上の結果を見ると、3地域とも「区間残存率推計法」で求めた平均寿命よりも建設年による変動が大きいこと、平均寿命は1951年以降から40年以上であること※2、地域によって平均寿命の変動の傾向は異なるものの基本的には伸びる傾向を示していることが判明した。なお平均寿命に地域差が見られる理由は、中央区や東淀川区に比べて枚方市は1970年以前の住宅が少ないことが影響していると考えられる。
これまで「区間残存率推計法」によって1971年以降は直線的に平均寿命は延びているため、恐らく第2次世界大戦以降の平均寿命は1960~1970年頃がもっとも短い時期であり、その後確実に伸びていると考えられる※3。このように日本の住宅の平均寿命が延びている理由についての詳細な分析はこれからであるが、設備や断熱そして建材の開発など全体的に住宅の「質」が向上していることが影響を与えていると考えられる。また住宅の延べ床面積の増加傾向も平均寿命の延びに影響を与えていると考えられるが、その影響については次回以降に考察したい。
※1 残存率については、「区間残存率推計法」と同様に4種類の分布式に当てはめて求めている
※2 「区間残存率推計法」では1971年以前の平均寿命を算出しても精度が低いため算出していないが、平均寿20年以下と求められる可能性が高い。この平均寿命の差については今後の研究で明らかにしていきたい
※3 1950年直後も平均寿命は低い傾向が見られるが、データは精度が低いことが考えられる
<参考文献>
1.「大阪における建築物の寿命に関する研究 その1、1951年以降における木造専用住宅の寿命の推移」山田直樹・五百川瑞穂・眞野慎吾・堤洋樹、日本建築学会九州支部研究報告書(計画系)、PP.153-156、2008.3
2.「大阪府における木造専用住宅の寿命の推移 : 1950年から1970年までの木造専用住宅を対象として」堤洋樹・小松幸夫、日本建築学会九州支部研究報告書(計画系)、PP.89-92、2004.3