前回の住宅の平均寿命に引き続き、今回は大阪における木造専用住宅の平均寿命を算出し、その推移について分析を行った研究結果(文献1)を基に考察していきたい。
この研究では大阪府内の3地域を対象に、1951年以降に建設された全木造専用住宅(木造の戸建住宅)に関する情報(建設時期・取り壊し時期など)を固定資産家屋除却台帳などを用いて把握し、「区間残存率推計法」を適用して平均寿命を算出している。また1980年から2000年までの平均寿命の推移を把握することで、日本の住宅における平均寿命の動向を把握することが可能になった。
研究対象となった大阪府内3地域であるが、固定資産家屋台帳の保管状況と立地条件を考慮し、夜間人口が少ない大阪市中央区(以下中央区)、住宅と工場が近接している大阪市東淀川区(以下東淀川区)、大阪のベットタウンである枚方市の3 地域とした。なお3地域別に固定資産家屋台帳と住宅着工統計の乖離について分析を行ったところ1990年以前の着工数は信頼性が低いことが考えられるため、建築物の建設棟数及び除却棟数が把握できる資料として現在最も信頼性が高いのは固定資産家屋台帳に記載されたデータであると考えられる。
なお中央区の平均寿命の推移を見ると、1980年には28.6年、1985年には33.4年、1990年には38.0年、1995年には42.7年、2000年には47.2年と、20年の間に20年程度延びている。同様に東淀川区の平均寿命の推移を見ると、1980年には31.2年であるが、1985年には40.1年、1990年には41.9年、1995年には48.1年、1999年には53.1年と、19年間で22年程度延びている。また枚方市の平均寿命の推移を見ると、1980年には32.4年であるが、1985年には36.7年、1990年には38.2年、1995年には43.6年、1999年には48.9年と、20 年間で17年程度延びている。
以上の結果から、地域による違いが少し見られるものの3地域とも1980年前半には30年程度であった平均寿命が2000年には50年弱と着実に延びている。また平均寿命はほぼ直線的に延びていること、立地条件が大きく異なる3地域の木造専用住宅が調査対象であるにもかかわらず平均寿命の違いはそれほど見られないことから、大阪府全体の木造専用住宅の平均寿命も2000年には50年弱、2009年現在では50~55年程度であると推測される。
この結果は2005年の全国の専用住宅の平均寿命(文献2)と比べてもそれほど差がないと考えられる※1。つまり現在の日本の戸建住宅における平均寿命の実態は50年程度であり、一般的に住宅の平均寿命だと考えられている30年程度を大幅に超えている状況である。また平均寿命は1980年以降着実に延びていることからも、何かと話題になる住宅の「質」は近年確実に向上していると考えられる。
では住宅全体の平均寿命は何年程度であると考えたら良いだろうか。もちろん戸建住宅の平均寿命を住宅全体の平均寿命にそのまま当てはめることはできない。しかし2005年の結果を見ても専用住宅と共同住宅の平均寿命※2にはあまり差が見られないことなどを考慮すると、戸建住宅の平均寿命はほぼ住宅全体の平均寿命と見なしてよいと考えられる。つまり木造専用住宅の平均寿命の推移はほぼ住宅全体の平均寿命の推移だと見なすことができるだろう。
これらの研究成果が示す重要な点は、感覚的ではなく統計的に住宅の平均寿命を把握することが可能になったことだけではなく、これまでの「住宅の寿命は短い」という間違った認識を改めるきっかけになることである。住宅の平均寿命が50年程度であることを知れば、建設後20年や30年程度で住宅の寿命が来るとは思わないし、建替えが必要と思わなくなるだろう。今後は建設後50年が経過した住宅でもようやく平均的な寿命程度になったに過ぎない。住宅の平均寿命の実態とその推移を見れば、今後は如何に建物の維持管理を行うのかが重要な課題になることが明らかである。
※1 大阪府の結果が示されていないが、最も低い平均寿命が札幌の44.61年、最も高い平均寿命が78.14年、多くが50年頃に集中している。
※2 前回述べたように共同住宅の平均寿命は戸建住宅に比べて精度が低い
<参考文献>
1.「1980年以降における木造専用住宅の寿命の推移」堤洋樹・小松幸夫/日本建築学会計画系論文集/第580号/pp.169-174/2004
2.「1997年と2005年における家屋の寿命推計」小松幸夫/日本建築学会計画系論文集/632号/pp.2197-2205/2008