前橋工科大学工学部建築学科 堤研究室
法定耐用年数の影響

法定耐用年数の影響

今回は「法的な」耐用年数について考えていきたい。法的な耐用年数である「法定耐用年数」は社会的耐用年数の1つと考えることもできるが、法的な拘束力を持つため建物の寿命に大きな影響を与えている。

建物・設備・自動車など経済的に価値が高く長期使用に耐える資産である「減価償却資産」に対する課税のため、時間とともに減少する価値を算出し各年度に費用配分していく計算の基準として法定耐用年数が定められている。 法定耐用年数はその性格上納税額に影響を及ぼすため、税法上「資産の種類」「構造」「用途」別に耐用年数を詳細に定めて恣意性を排除している。つまり法定耐用年数とは減価償却資産が利用に耐えると考えられる法的な年数であり、減価償却資産への課税の公平性を図るために設けられた基準である。

さて法的耐用年数を定めているのは「減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四十年三月三十一日大蔵省令第十五号)」であるが、その主な沿革を振り返る。

明治32年(1899)に第一種所得税として法人課税が創設されるが、当時は評価減を除いて資産の価額を下げる(減価償却する)ことを認めていなかったため、納税者と税務当局の間に論争が起こっている。明治36年(1903)には東洋汽船株式会社訴訟などの行政訴訟で国側が敗訴したため船舶など限定的に減価償却が認められたが、建物の減価償却は認められていない。

大正7年(1918)の「固定資産ノ減価償却及時価評価損認否取扱ノ件(主秘第177号通牒)」では減価償却に関する税務上の取扱いが税務当局内部で示される※1。内部資料ではあるものの耐用年数表(当時は「堪久年数表」)が定められるなど次第に減価償却の取扱いが明確化している。ちなみに建物については事務所住宅用・工場倉庫用・付属建物の3用途に加え構造材別に耐用年数が定められ、事務所住宅用の鉄骨鉄筋コンクリート造は100年、同じく石造は50年となっている。

その後昭和26年(1951)には「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の前身である「固定資産の耐用年数等に関する省令(昭和二十六年大蔵省令第五十号)」が制定された。減価償却資産の範囲を明確にし、償却方法の追加や増加償却の創設や青色申告法人の償却不足額の5年間繰越などの大改正が行われている。当時の耐用年数は鉄筋コンクリート造住宅の場合、躯体の鉄筋コンクリートは「中性化が終わったときを持って効用持続年数が尽きたるものと考えるを適当と認める」として150年という耐用年数を設定している。同様にアスファルト防水20年、本仕上の床30年、タイルもしくはモルタル仕上の外装30年、スティールサッシ30年などとなっている。また木造については、玉石打ち込みコンクリート布基礎で主柱3.5 寸角の構造体を50年、建具20年、屋根50年、水回り軸組み25 年となっている※2。

そして昭和40年(1965)には「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」として全文改正が行われた※1。平成10年(1998)には同年度以後に取得された建物の償却方法は定額法のみとなったが、さらに平成19年(2007)には従来の定率法・定額法ではなく250%定率法が採用され早期償却が可能となった※1。なお耐用年数表は今日までに何度か見直しが行れているが、現在(平成20年時点)の住宅の法定耐用年数は、木造22年(モルタル造の場合20年)、鉄骨造19年(軽量鉄骨の場合、鉄骨の厚さに応じて27年・34年)、鉄筋コンクリート造47年、となっている。また事務所については、木造24年(モルタル造の場合22年)、鉄骨造30年(軽量鉄骨の場合、鉄骨の厚さに応じて38年・41年)、鉄筋コンクリート造50年、と住宅より数年長い。

法的耐用年数の算定方法は、建物を構造部分別に分解し、各部位のコストとその耐用年数から年当たりの償却費を算出し、それを合計することで建物総体の年間の償却費を求める。この総償却費で建物の総コストを割ったものを耐用年数と見なしているため、大蔵省令を改定する際の物価や各部位の耐用年数の設定によってその値は大きく変わってくることになる。しかし実際は物価や各部位の耐用年数の設定以外にも法定耐用年数に影響を与える要因が存在する。なぜなら行政側は長期的かつ安定的な固定資産税を確保するため法定耐用年数をできるだけ長期間に設定したいが、民間側は減価償却期間が長いほど納税額が増えるため法定耐用年数をできるだけ短期間に設定してほしいと考えるからである。

このように法定耐用年数は行政と民間の駆け引きによって決まるため、実際の耐用年数とは必ずしも一致しない。しかし現実は法定耐用年数によって納税額が決定されるので、特に商業施設など営利を目的としている建物では耐用年数や寿命を決定する重要な指標となる。そして法定耐用年数を過ぎた建物は税法上だけでなく経済的にもほぼ「資産価値=0」であり、取り壊されても仕方がないと見なされることになる。

経済的な側面を考慮せずに法定耐用年数を定めることはできない。しかしすぐに資産価値がなくなってしまう建物を誰が長期間費用をかけ大事に維持しようと思うだろうか。特に木造・鉄骨造住宅の20年程度という法定耐用年数は、「日本の住宅の寿命は30年程度」という一般的な感覚から見ても短かすぎではないだろうか。法定耐用年数が直接建物の寿命を決定するわけではないが、建物の耐用年数を延ばすには法的な整備と支援が経済的な側面からも重要になる。実は建物の法定耐用年数は改正を重ねるにつれ短くなる傾向にあるが、現状以上の建物の長寿命化を実現するには建物そのものの耐用年数だけではなく法定耐用年数の延長を前提とした税法上の見直しが不可欠であろう。

※1 「建物の寿命に対する認識」(2月15日エントリー)と照らし合わせてみると、省令が大きく転換する時期は日本人が建物の寿命を認識した時期と考えられる1910年頃・1960年頃・1990年頃とほぼ一致している。

<参考文献>
1.「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」法令データ提供システムHP
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S40/S40F03401000015.html
2.「税法上の減価償却制度の沿革-耐用年数を中心とした一考察-」白石 雅也/税務大学校論叢 論叢15号/1982 http://www.nta.go.jp/ntc/kenkyu/ronsou/15/129/ronsou.pdf