本題に入る前にもう一つ、寿命の話の際によく話題になる用語について確認したい。その用語とは「耐久性」と「耐用性」である。
一般的に建築における「耐久性」とは、建物またはその部分の劣化に対する抵抗性※1と定義されている。つまり地震や火災などの災害を除き、物理的・科学的・生物的要因による性能が低下することを防ぐ能力のことを耐久性と呼ぶが、建物が建てられてから壊されるまでに襲いかかる様々な劣化要因に対する耐久性が各部材に必要とされる。例えば、木造住宅の外壁は建物の自体の重さに加え、人間や家具などの荷重に耐えなければならない。また雨や風による水分や汚れにも耐えなければならない。そして腐朽菌やシロアリにも耐える必要がある。そして忘れてならないのが、時間的な耐久性である。あらゆる物質は時間の経過と共に劣化していくが、初期の段階で耐久性が高くても、すぐにその耐久性が低下してしまう材料は多い。
このように、建物の使用年数が延びれば延びるほど劣化要因は増加するため、一般的に住宅の寿命を延ばすためには耐久性が高い材料を使用することが不可欠であると考えられている。しかし現実はどうだろうか。まだ十分使えると思われる建物が実際には壊されていないだろうか。本当に耐久性が問題になるほどの期間、私たちは建物を使用しているだろうか。
建物を長く使用していれば、どんなに丁寧に扱っていても外観は当然ある程度の風化が進み、汚れが目立ち材料によってはみすぼらしく見えるだろう。もちろん、材料自体の耐久性も当初より低くなっているはずだが、破損や亀裂が無ければ物理的・科学的・生物的な要因にまだ十分耐えられると考えられる。また仮に劣化が進んでいたとしても、部分的であれば交換や補修など技術的な解決方法により全体の耐久性を復元させることが可能である。しかし実際には、デザインが古いとか、狭いとか、バリアフリーではないとか、耐久性とは関係ない理由で多くの建物の寿命が決まってしまう場合が多い。この場合、要求されていた性能が劣化したのではなく、要求自体が変化したために建物が寿命が来て取り壊されたと考えることができる。
そこで私たちは、建物やその部材に要求される性能を維持する能力を「耐用性」と呼び※2、その能力を維持できる期間を示す耐用年数について研究を行っている。建物内では人間が活動しているため、特に安全性能などが要求される性能よりも低いと判断されると、何らかの補修や改修を行わない限り一般的には取り壊されてしまう。つまり建物を取り壊す理由の多くは耐久性の問題ではなく耐用性の問題であり、そのため建物の耐用年数は建物の寿命にとても大きな影響を与えているのである。耐久性を含め建物の部材に要求されていた性能は確保しても、使用者の一方的な要求条件の変化が建物の耐用年数、そして寿命を縮めている実態にどう対応すれば良いのか、これこそが建物の寿命を論じる最大の要点となる。
※1 文献1より引用(建築物を建物に統一)した
※2 文献1では「建築物またはその部材が機能を持続して維持する能力」を耐用性としているが、一般的な概念と少し異なるため修正した
<参考文献>
1.「建築物の耐久計画に関する考え方」日本建築学会/丸善/2002